外国人労働力と成長戦略
外国人労働力と成長戦略(大機小機)
日本経済新聞(2021/10/15)
政府が外国人労働者の受け入れ拡大に動き始めた。建設、農業、介護など人手不足が深刻な業種への単純労働者の就労を認める新たな在留資格を設け、来年4月から受け入れを始めるという。
日本は外国人の単純労働の受け入れを原則として認めてこなかったが、技能実習生や留学生アルバイトが事実上の単純労働者として建設や農業、飲食サービスなどの現場で働いていた。日本の外国人労働者は2017年10月末で127万人と、5年で倍増した。
新制度の創設は、これまでの裏口からの受け入れではなく、真正面から労働力として捉えるという意味がある。人手不足に悩む地方から悲鳴があがり、政府もそれを受け止めざるを得なくなった面が強い。
人口減少が進む日本では今後、労働力人口が急速に減少する。高齢者や女性の労働参加率を高めても足りず、外国人労働力の活用も避けられないとの議論はあった。政府がこの問題に本腰を入れ始めたことは評価してもよい。
ただ、そのやり方には心配な面もある。特に問題なのは、日本の成長戦略を考えるうえでどのように外国人労働力を位置づけるかという重要な点を、真剣に議論した形跡がないことだ。
高齢化が進む地方の中小・零細企業では、外国人労働者がいなければ操業自体が難しいところが多いという。今回の新制度で外国人労働者を従来より長い期間受け入れることができれば、一息つく企業も出てくるだろう。
心配なのは、低賃金の外国人労働力の流入が、企業の生産性向上の妨げにならないかという点だ。人手不足で苦しんでいるのは労働集約的な産業が多い。こうした産業が中長期的に成長するには、労働者を増やすよりロボットの導入などの省力化投資で生産性を高めることが必要だ。
日本の労働力不足は、女性や高齢者の労働参加を促すと同時に、人工知能(AI)やロボットの活用など第4次産業革命の起爆剤になる可能性もあるのだ。
IT(情報技術)など高度スキルを持つ外国人労働者は日本の生産性向上につながる可能性があるが、安易な単純労働者受け入れは日本の成長力強化につながらない恐れもある。政府はこの点の議論もしっかり進めてほしい。
(琴線)